「ところでアレカさん、ここどこ?」
 そんな俺の質問にアレカさんはまず驚いたような顔をした。そして呆れたような動作をしたかと思うと、頭を抱えてしまう。
「………そうだった。コイツ、地上人だった」
 コイツとな……。せめて名前で呼んで欲しい。
「俺のコトは雄伍って呼んでくれないかな?アレカさん」
「あっ、ごめん。わたしのこともアレカでいいわよ」
 思わぬ形で親密(?)になったところで、再度質問した。
「それでア…アレカ、ここはどこなんだ?」
「天空都市アルテミスよ」
 はて、天空都市とな……。
「それって、天国とは違うのか…」
「違うわよ!わたしたちは、言ってみれば貴方達と同じ人間だし、ここは地上と同じ土壌や水で構成されているわ。元々地上にあった島をごっそり掘り起こして古の魔術で浮遊させたのを雲で隠しているから、地上と大して変わらないのよ」
 つまりは……。
「島が浮いてるってことか」
「そういうこと」
 でも、島が空中に浮かんでいるとしたら地上からは見えないにしても、飛行機からとか人工衛星からとかだったらばれてしまうんじゃないだろうか。
「島がまるごと浮いてるなら、なんで俺たちに見つからないんだ?」
「ああ、それは認識阻害結界のおかげなのよ。わたしたちの天空都市は、ドーム状のシールドに覆われているの。人の目、機械の目すら欺く認識阻害魔術が働いていて、レーダーですら見つからないようになっているのよ」
  凄い。聞いているだけで、心が躍る。俺が求めていた非日常はまさにここにある。
「んで、どうして俺はここにいるんだ?」
「なっ……それはわたしが聞きたいわよ!なんで、認識阻害がかかったテレポんに地上人が入って来れるのよ!!アンタの所為で、大迷惑よ。ああもう、どうしてくれるのよ!!」
  どうやら琴線に触れてしまったようだ。アレカはパニック状態に陥っている。周りが見えなくなるほどに……。
「そうじゃな、相応の処罰は受けてもらわねばならぬのう」
「……っ!長老」
  アレカは人影の存在に全く気付いていなかったようだ。
「神眼のダモンじゃ。アルテミスの長老をやっておる。宜しくのう、青年」
  ダモンと名乗る老人は俺に手を差し出した。慌てて俺も手を出し握手する。
「さて、アレカ。お主がしてしまったことはわかっておるの」
  ダモン長老は、その表情こそ柔和で優しそうであるが、声と言葉には有無を言わせぬ迫力がある。
「……はい。掟を破ったわたしは、相応の誓約を負わせていただきます」
  アレカの悲痛な声。恐怖心に支配され、絶望に満ちた表情をしている。
「偶然とはいえ、地上人をこのアルテミスに連れてきてしまったのは大罪じゃ」
  ダモン長老の声は落ち着いていた。
「アルテミス法第四十五条違反の罪で、水のアレカと地上人の青年は強制的にアルテミス第七誓約を執行してもらおうかのう」
  こうして俺たちの運命を変える判決が下ったのである。

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