俺は呆然と立ち尽くしていた。

  なぜって、それはアレカの妹さんが快活な美少女かと思ったら、その美少女がアレカの「お兄さん」だと知ったら驚かない人はいるだろうか?いや、いない。
どう見たって可愛い女の子だったもん。
  そりゃ、エロゲーでは男の娘によく出会うさ。可愛いとか思いながら、萌えーとか言いながら、画面を凝視してるさ。
  でも、そんな幻想種が現実に現れたら呆然とするしかないだろうよ。
  というか、もしかしてこの二段ベッドってアレカとお兄さんの……。
  ってことは、お兄さんとも共同生活!?

「ただいま帰りました。あれ、姉さん帰っていないのですか?」
  部屋の入口を見ると、学校の制服らしき服を身に纏った、清楚で可憐な美少女が立っていた。
「あら、あなたはもしかして……」
「あっ……その、篠宮雄伍です」
 俺は予想外の事態に、思考の切り替えが間に合わず、状況を処理しきれずにいた。
「ユウゴさんですね。お会いできて光栄です!」
「……はい?」
  ただでさえ、新しい女の子が現れて混乱しているというのに、会話にもついていけなくて大パニック状態である。
「認識阻害を破ってアルテミスに来た普通人ってユウゴさんですよね?」
「……ああ、そうだけど」
 よく分からないが、この子は俺のことを知っているらしい。そして、先ほどの「姉さん」という発言を考えると、彼女こそアレカの妹さんなのかもしれない。
「素敵です!普通人がアルテミスにいらっしゃるなんて!」
  目の前の女の子は、凄いはしゃぎっぷりで、俺の手を両手で握ってブンブンと振り回している。
「本当に夢みたいです」
 こちらこそ夢みたいだ。妹さんをじっくり見ると、アレカに負けず劣らず、モデルとしてもトップレベルではないかと言えるほどに美人である。しかし、そこに清楚な空気を纏っていて、アレカとは対照的である。
「姉さんが来る前に済ませてしまいませんと……」
 妹さんはそう言うと、急に俺を押し倒してきた。
「あの、ちょっと失礼しますね」
  そして彼女は俺の上にまたがると、顔を近付けて来た。
「……え?はっ……はい?」
  そして、彼女の唇が俺の唇と重なりあったのだった。

“プシュン”

  身動きができずに美少女とキスをしていると、アレカが目の前に現れた。
  アレカと目が合う。
  その間、およそ一秒も経っていない。しかし、その一瞬が俺には悠久の刻に感じられた。

「ちょっとアンタたち、何やってるのよ!!」

  アレカの強烈なビンタで現実に引き戻されるのであった。
 

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