少し気まずい雰囲気になった俺たちだったが、今はなんとか雑談ができるほどに落ち着いている。
「なぁ、アレカ……俺の着替えとかはどうすればいいかな」
「そういえばそうね。アルテミスがトウキョウ上空に停泊している内にアンタの家に行った方がいいわね」
  いや、それはまずい……。家の中は、それはもう、エロゲーやらギャルゲーやら同人誌やらラノベやら漫画やらが雑然と転がっていて足の踏み場もないほどである。
「じゃあ、明日の予定は決定ね。後で長老に相談して、転送装置を貸してもらおうかなぁ。やばっ、そうなるとアキバで買いたい放題じゃん!明日は楽しくなりそう!!」
  アレカがベッドの上に寝そべりながら足をバタバタさせてはしゃいでいる。非常に可愛らしい。

「あのさ……喜んでいるところ申し訳ないんだけど」
「………なによ」
  うわっ……凄い形相で睨んできたし……。きっきまでのにまぁーっとした弛んだ表情はどうしたんだ?
「俺……たぶん警察に追われてるんだけど」
「……はぁ?」
  そりゃ、そんな反応をするのも当たり前である。自分でも信じられないのだが、こんな現実離れしたファンタジー世界に迷い込むきっかけになったのも、秋葉原で警察に追われたからなのである。
「公園に置いてあった紙袋を交番に届けたらさ、血眼になって警察官たちが追いかけてきてさ」
「それでわたしのいるテレポんに逃げ込んできたのね……」
「そういう事だ」
  事情を説明すると、アレカは「…はぁ」と深い溜め息をついて言った。
「それなら直接アンタの家の中にテレポした方がいいわね。長老に頼むしかないわよね」
「ごめんな、期待を裏切って……」
「別にいいわよ。端から期待なんかしてなかったし……」
  いや、絶対嘘だ。
「その代わり、俺のコレクションで気に入ったのがあれば持っていっていいからさ」
「えっ、……本当に?」
  アレカの瞳が急にキラキラと輝きだした。
「ああ、本当だ」
「えへへ、楽しみだなぁ」
  再び、ベッドの上で足をバタバタとしながら喜んでいる。アレカも分かりやすいヤツだなぁと思う。

 落ち着いてきたところでアレカの部屋を見回してみる。凄く広い部屋で、部屋一面が白を基調としたシンプルな色合いだが、可愛らしい装飾も施されていて女の子の部屋って感じがする。大量の漫画や同人誌が棚にびっしりと詰まっているのは、女の子らしいとは言えないが……。
 ベッドは二段ベッドで、勉強机も二つあり、それぞれの机にパソコンが一台ずつ置いてある。どうやらアレカには姉か妹がいるようだ。

 そうしてアレカと会話をしていると廊下の方からバタバタと足音が聞こえてきた。そして、ガチャリと部屋のドアが開かれる。
「お姉ちゃんただいまぁーー!うわぁー、お姉ちゃん男連れ込んでるぅーー!」
「ちょっ……入るときはノックしなさいよ!それに、どうせアンタはわたしたちの事情を全部知ってるんでしょうが!!」
  入ってきたのは、アレカよりも少し小柄な美少女だった。
「えー、なんのことかなぁーー?」
「とぼけるんじゃないわよ。それと、アンタが着ているその服、わたしのじゃないの!」
  なるほど、この子がアレカの妹さんなのか。
「ええと、お兄ちゃんがアレカの恋人のユウゴさん?」
「えっ……ああ、うん……そうだけど」
「はいそこ!どさくさに紛れて変なこと言わない!というか、ユウゴの名前を知ってるってことは、全部事情を知ってるってことじゃない!」
「なんのことかなぁ……じゃあねっユウゴ」
  そうして、美少女はアレカの部屋から出ていった。そして……。

「ちょっと待ちなさい、兄さん!!」
  そう叫びながら美少女を追いかけてアレカも部屋から出ていった。

  ていうか、兄さんって………。

 えええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーー!!!!!!
  
 

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