ダモン長老と別れ、俺たちはアレカの家に向かっている。2mほど離れ無言で歩く。
 既に第七誓約の執行は始まっていた。俺たち二人は、ダモン長老に渡された金属製のブレスレットをしている。ブレスレットには「Artemis 07」と刻まれている。一度付けたら最後、条件を満たさない限り一生外すことができないのだそうだ。ブレスレットを見れば、その人が法を犯したと一目で分かってしまう。考えてみると地上の制度よりも恐ろしいかもしれない。
 俺たちが最初に出会った庭園を出ると、そこは住宅地だった。とはいっても東京のような雑多なものではない。前庭があり、家は広々とした一軒家ばかりが立ち並ぶ、裏庭にはプールが付いている家もある。俺からしてみれば驚愕の光景である。アレカに言ったら怒られるが、やはりここは天国なのではないかと疑ってしまうほどだ。
 歩きながら、ふとアレカの顔を見てみた。よく考えてみるとアレカと出会ってまだ一時間も経っていないだろう。それにもかかわらず、俺たちは名前で呼びあい、しかも共同生活まですることになってしまった。そんな彼女は、はっきり言って可愛い。肩までかかるくらいの黒髪。青眼で肌は白い。身長は俺より少し低いぐらいだろうか。まぁ胸をスルーすれば女性らしい美しいプロポーションだ。
「着いたわ。ここがわたしの家よ。お父さんは仕事に行ってて、お母さんは友人と地上に買い物に行ってるから夕方までわたしたちだけになるわね。たぶん、第七誓約執行者になったことは伝わってるだろうけど……」
 2階建てでプール付きの家。見た目だけで圧倒される。これからこの家で生活することを考えると期待も膨らむが、何せ第七誓約が邪魔して不安だらけで複雑な感情が渦巻いている。
 アレカの家の玄関をよく見ると、女の子が3人立っているのが見える。
「アレカちゃん!誓約執行者になっちゃったんだって?お父さんから聞いて慌てて来たの」
 黒髪で可愛らしい小柄な少女が心配そうな声で俺たちの元にやって来た。
「エフィ…ごめんね。わたし、誓約執行者になっちゃった」
「お前は東京上空に停留すると何回もテレポんを使うから心配していたんだけど、ついにやったな。あたしはやめとけって何度も言ったよな」
 長身でスレンダーな体に腰まで伸びる金髪を靡かせて、凛々しくハスキーな声の女性がアレカに向かって言った。
「ディオネの注意はちゃんと聞いていたのよ。昔より地上に遊びに行ってないもんわたし。それでも、秋葉原は例外なのよ。アンタ達だって、わたしが買ってくる同人誌を読んでるでしょ?」
「それはアレカさんがどうしても秋葉原に行きたいと言うのでわたしたちが止めないだけですよ。わたしたちは皆、アレカさんのことを心配しているのです」
  そう優しくアレカに語りかける彼女は、桃色の美しい髪をしており清楚な雰囲気を持っている。
「うん。フローラもごめん……」
「もう過ぎちゃったことは仕方ないよアレカちゃん。それより、これからのことを考えよう」
「エフィの言う通りだぞ、アレカ。とりあえず、そこの青年を紹介してくれ」
 ディオネと呼ばれる女性がそういうと、全員の視線が俺に向けられた。
「ああ、コイツはわたしと一緒に誓約執行者になった地上人のユウゴよ」
「篠宮雄伍です。みなさん、どうぞよろしくお願いします」
 美女に囲まれてガチガチに固まった俺は、かろうじて自己紹介し頭を下げた。
「ユウゴさん、よろしくお願いします。ところでアレカさん、あなた方が執行することになった誓約は何なのでしょうか?」
「「………………………………………………」」
 やはりお互い言い出しにくいのか、二人して言い淀んでしまった。
「なんだよ。もう誓約執行者になっちまったんだから、あたしたちに番号くらい言っても変わらねえだろ」
 そう言って、ディオネさんはアレカの腕を掴んでブレスレットの数字を見た。
「ほう。第七誓約か……。なぁフローラ、第七誓約ってなんだっけ?」
「第七誓約ですか。確か700年ほど執行されていない誓約ですよね。二人の人間に執行されて、一定範囲以上離れると強制的に一人がもう一人の元に連れ戻されると覚えた記憶があります」
「あっ、わたしもその誓約知ってる。二人が一生離れられなくなる『赤い鎖』の誓約だって聞いたことがあるよ」
 エフィさんがそう言ったところで、ディオネさんが俺とアレカを見比べている。
「なぁ、それってつまり……お前ら同棲するのか?」
「……っ!!違うわよ、ユウゴは仕方なくわたしの部屋に寝かせてあげるだけよ。同棲じゃないわよ!!」
 アレカは真剣に反論していた。しかし、ディオネさんは冷静だった。
「いやアレカ、それを同棲って言うんだ」
「…………………………………………………………」
 アレカ、撃沈。
「アレカちゃん、エッチ」
 エフィさんの発言。
「卑猥ですね」
 フローラさんの発言。
「淫乱だな」
 ディオネさんの発言。
「みんな、何を一体想像しているのよ!!!」
“バシィーーーーーーン”
 そしてなぜか俺がアレカに思いっきりひっぱたかれたのであった……。
 
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