処女はお姉さまに恋してる
〜白菊の君のシュヴァリエ〜

 連日降り続いた雨も上がり、近頃は吹く風にも初夏のさわやかさを感じるようになってきた。雨に濡れる紫陽花の姿をじっと静かに見つめていた学院の校舎も、最近では少女達の黄色い笑い声と楽しそうな会話を聞いて、どこか嬉しそうに微笑んでいるように見える。

 その少女達の会話の中でも、一際輝きを放つ言葉がある。

 『お姉さま』

 一般的には何の変哲もないこの言葉は、この女学院では特別な意味をもつ。その背景にあるのが、この学院の伝統として長年継承され続けてきた『エルダーシスター』制度である。『エルダーシスター』とは、毎年6月末の全生徒によって開かれる投票によって選ばれた、『学院の生徒が最も尊敬する最上級生』に与えられる一種の称号のようなものである。通常『エルダーシスター』は、『エルダー』と省略された形で呼ばれ、エルダーに選ばれた最上級生は同級生も含めて全生徒に『お姉さま』と呼ばれることになる。ゆえにこの学院では上級生を『○○お姉さま』と呼ぶのが慣習であり、単に『お姉さま』と言った場合はエルダーのことを指す。エルダーは、他薦のみで選ばれ、拒否権もなければ義務もないというものなので生徒会長のような公式な役職ではないのだが、事実上の全校生徒の代表であり、時として生徒会長をも凌ぐ発言力を持つことがある。そして、先日第74代エルダーシスターが決定したばかりなのである。そのため、校内では新エルダーに就任した『お姉さま』の話題で持ちきりであった。

 その第74代エルダーシスターの名は、周防院奏。

 演劇部の部長であり、『白菊の君』の二つ名で知られていた彼女は、二代前のエルダー宮小路瑞穂の『妹』であった。その学院内での知名度の高さと、小柄で可愛らしい容姿、優しい性格を併せ持った彼女の人気は、徐々に高まっていき、彼女はついにはエルダー候補に選出されるまでになった。そして、『セイレーンの君』こと放送委員長魚住響姫との一騎打ちとなったエルダー選において、響姫が自身の票を奏に譲与したことによって、奏が今年度のエルダーシスターとなった。

その新エルダーの誕生を誰よりも心配し、そして誰よりも喜んだ少女がいる。その名は、七々原薫子。

 奏と奏の『妹』である薫子の絆は、このエルダー選を通してより深いものとなった。そして、これからもより強いものになっていくことだろう。このように姉から妹へと伝統は引き継がれ、妹はその妹へと伝統を継承していく。

これはそんな彼女たちが刻む、未来への物語。


『処女はお姉さまに恋してる〜白菊の君のシュヴァリエ〜』

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