そして、時は過ぎ、夏休み当日となった。
「薫子ちゃん、荷物は纏まりましたか?」
  さすがに長期滞在になるので、いくら小柄な奏でもけっこうな荷物の量になった。況んや薫子をや……という訳で、そろそろ楓さんが迎えに来るという今現在でも薫子の部屋は悲惨な状況であった。
「お姉さま。朝から準備すれば昼には終わるっていったじゃないですかぁ〜」
「あの。私はもう終わりましたが……」
「ううっ。お姉さま、ひどい」
  なんとも理不尽な発言を薫子が放つや否や、玄関のベルがなった。
  ピンポーン
「奏、薫子、お邪魔しますよ」
「あら、ケイリちゃんですね。お待ちしてましたよ」
 ケイリは奏の姿を確認すると、淑淑とした態度で奏に相対した。
「奏、この度は、私の我儘を聞いていただき感謝いたします」
「それなら私ではなく瑞穂お姉さまに言ってください。私は当たり前のことをしたまでですから」
 奏らしいその言葉にケイリが答える。
「やはり、貴方は優しい方ですね。どうやら私は本当に良い先輩に恵まれたようだ」
 奏は少し照れた顔をして答えた。
「ケイリちゃんにそう言ってもらえるのは光栄ですね」
「ははは、確かに私が人を誉めるのは珍しいですけどね。ところで、もう一人の私が尊敬して止まない方はいったいどうされたのかな?」
 ケイリの質問に奏は少々苦い顔で答える。
「えっと、薫子ちゃんならまだ荷物を纏めているのですよ」
  さすがのケイリも驚きの表情を見せたが、すぐにいつもの表情にもどると尊敬して止まないはずの薫子に対する不平をもらす。
「相変わらず、薫子は薫子だね。どうせ自分の荷物の量もろくに予測しないで、奏に合わせて荷物を纏めはじめたのだろうね」
  ケイリの推測は一から十まで完璧であった。
「当たりです。楓さんが来る前に詰め終わればいいのですけれど、薫子ちゃん大丈夫なのでしょうか?」
 今昼の1時を回ったところである。楓が来る2時半には、一時間半の猶予があった。
「まぁ、私たち次第でしょうね」
  そうケイリが苦笑しながら言った。
「そうですね。妹のピンチを助けるのは姉の義務ですからね」
「私は薫子より年下なのですけれどね。まぁ、相手は薫子だし仕方がないか」
  二人とも、言葉では薫子のことを散々に貶してはいるが、その信頼と愛情は他の誰よりも深いものがあった。

 

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