「奏ちゃん、そこのお酢を取ってくれる?」
「はいなのですよ〜」
 和気あいあいとした二人を薫子が見つめながらニンジンの皮むきをしていた。
「今日のお姉さま生き生きしてるね」
「そうですか?いつも通りですよ」
「いや、いつもより生き生きしてる」
「そうだね、私からもそう見えるかな」
 メイド服を着た女の子三人、もとい女の子二人と男の子一人は、現在夕食作りをしていた。
「それは、瑞穂お姉さまと薫子ちゃんがいるからですよ」
 奏にそう言われ、ぽっと赤くなる二人。まるで姉妹のように見える。
「やっぱり、瑞穂さんがいると違うのかな。今日のお姉さま、普段より幼く見えるし」
「薫子ちゃん、それは嫌みですか」
 頬を膨らます奏。怒っているのにもかかわらず、なんとも可愛らしい。
「いやいや全然。むしろ、瑞穂さんの力は絶大だなぁと思って」
「薫子ちゃんは、私に妬いているのね」
「そんなことはないっ………ですけど」
 動揺が全く隠しきれていないところは、なんとも薫子らしい。
「ふふふ。でも、そうですね。瑞穂お姉さまがいるとどうしても妹モードに切り替わってしまうのかも知れません」
「そうかぁ、お姉さまはずっとエルダーとしてみんなに見られてるんだもんね。心休まる暇がないよね」
 がっくりと項垂れる薫子。殊、奏のことになると薫子はどうしても感情が表に出てしまうのだ。
「いいえ。薫子ちゃんがいれば、何でも世話を焼きたくなる姉モードになれますから大丈夫なのですよ」
「世話を焼くって、心休まってないじゃん!やっぱり、あたしじゃだめなのかなぁ〜」
 悪戦苦闘しながらも全く進展しないニンジンの皮むき作業を放り投げ、机に突っ伏す薫子。
「ふふふ。それが薫子ちゃんの本音ね。そんなことは心配する必要ないんじゃないかな。私は奏ちゃんと薫子ちゃんを見ている限り、メンタルケアはお互いしっかりできてると思うよ」
「恥ずかしいですけれど、薫子ちゃんがいなければエルダーは続けていられないのではないかと思うのです。薫子ちゃんがいるからこそ、エルダーとしての役目を全うできるのですよ」
 何気ない奏の一言に、思わずうるっときてしまう薫子なのであった。

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