「瑞穂さん。薫子ちゃんがどうかされたのですか?」
「それがですね。どうやら薫子ちゃん、奏ちゃんに合わせて荷造りを始めたそうで、時間がかかってしまったみたいですよ」
「それは薫子さんらしいですね」
「そうだね。でも、貴子だって昨日は、クローゼットから出した服が部屋いっぱいに散らかって大変なことになってなかった?」
「あなた!!」
「貴子さんも以外とお茶目ですのね」
「もうこれ以上は恥ずかしいのでやめてください」
 二人にからかわれ、貴子の顔は真っ赤に染まっていた。
「何がはずかしいって?」
 突如、貴子の背後から瑞穂の幼なじみである御門まりやが現れた。
「まりや!」
「やっほー瑞穂ちゃん。ドアが開いてたから勝手に入ってきたよ」
「あなたですか。相変わらずですわね、まりやさん」
「そういうあんたこそ相変わらず……って、どうしちゃったのよ、その格好?」
 心底驚いた表情をして、まりやが貴子に質問した。
「えっ?その……おかしいでしょうか」
「その逆よ、逆。まさか貴子が自分からカジュアルな服を着るとは思わなかったわ」
「その、この服は瑞穂さんに仕立ててもらったもので、私も気に入っているのですが……」
 そう言いながら貴子は頬を赤らめた。
「なるほど。さすが瑞穂ちゃんね。やっぱりセンスあるわ。本当に男にしておくには惜しいわよ。いっそ、女の子になっちゃわない、瑞穂ちゃん?」
 本気なのか冗談なのか判断がつかない。
「ちょっと、まりや!」
「それは駄目です!瑞穂さんが女の人になってしまったら私が子供を産めなくなってしまいます!!」
 真面目な顔をして、貴子はそう答えた。
「子供を産んだ後なら瑞穂ちゃんが女の子になってもいいんかい!まぁ、あんたは元々、瑞穂ちゃんを女だと思ってたんだし、瑞穂ちゃんの性別が変わったところでたいして違いはないか……」
「確かにそうですけど……」
「認めちゃったし……って、瑞穂ちゃん隅でいじけてるし」
 貴子は瞬間はっとして、瑞穂の肩を掴んだ。
「あなた!しっかりしてください。男であっても、女であっても、私のあなたへの愛は決してなくなったりしなせんから!!」
「貴子、それフォローになってないわよ」
「うぅ……」
 瑞穂が落ち込んでる横で、何かを閃いたのか紫苑が嬉しそうに言った。
「そうですわ。瑞穂さんが女の方になって、貴子さんが男の方になれば、よろしいのではないですか?」
「「「…………」」」
 一同唖然。
「あら。もしかして、私変なこと言いました?」
 本人は至って真面目なのが、尚更たちが悪い。
「と、ともかくですね。あたしとしては、貴子が多少なりともファッションを気にするようになってくれたのは、嬉しいけどね」
 慌てて、まりやが話を逸らした。
「まりやさんに誉めていただけるなんて、明日は台風が来ますわね」
「なによ。せっかく、なんだかんだであんたのファッションセンスを指導してあげた甲斐があったなと感動してたところなのに、台無しじゃない」
 すると、にんまりとまりやを見つめながら瑞穂が言った。
「あれ、まりや。お化粧の指導をしてたのは君枝さんじゃなかったのかな?」
「たとえ貴子がついでで教えたとしても、教え子の成長は嬉しいものよ」
「全く、素直じゃないよね、まりやは」
「もうこの話はいいわよ。それより、さっき皆でなんの話してたの?」
「ああ、それね。奏ちゃん達の到着が遅れてるのだけれど、その原因が薫子ちゃんが奏ちゃんに合わせて荷造りをはじめたことらしいんだ。それで、楓さんに薫子ちゃんへのお仕置きを考えておいてほしいって頼まれたっていう話」
「あれ?貴子が恥ずかしいとか、そんな話じゃなかったの?」
「その話はもういいんです」
「なんか貴子、話し方まで変わっちゃって気味が悪いわね」
「まりやさん。それは仕方がありませんわ。なにせ二人は、いつも一緒で、いちゃいちゃ・ラブラブ・ぬれぬれですもの」
「「紫苑さん!最後のはなんですか。最後のは!!」」」
「うわっ。見事にハモったわね」
「そのくらいは二人にとって朝飯前ですわ」
「紫苑さん。まりやにあることないこと吹き込まないでください」
「瑞穂さん。私はあることしか話していないつもりですがいかがでしょうか」
 瑞穂撃沈。
「はい、瑞穂ちゃんの負け。いやぁ、これは当分ネタには困らないわね」
「なんか貴子の昔の気持ちがわかった気がする」
「そうでしょう?まりやさんと会うと私、無性に腹が立つんですの」
「なんとでも言いなさい。あたしはあたしが面白ければ、なんでもいいのだ。わっはっは!」
「わっはっはじゃないよ、全く。それより、薫子ちゃんへの罰を考えておかなきゃ」
「それなら、あたしにいい案があるよ」
「またよからぬことをやらかすおつもりでしょう。あなたは」
「そうとは限らないわよ。瑞穂ちゃん、確かここ宛てに荷物を届けておいたんだけど、もう届いてる?」
「まりやの部屋に置いといたよ」
「皆さん、少々お待ちください。いますぐブツを持ってきますので」
 そういうとまりやは颯爽と廊下の外に消えていった。
「今日のお昼に届いたあの大量の荷物はまりやさんのでしたのね」
「なんか、いやな予感がするなぁ」
「ふふふ。面白くなってきたではありませんか」
 紫苑がそう言うとまもなくしてまりやが戻ってきた。
「おまたせ皆さん」
 まりやは両手で段ボールを抱えている。
「その段ボールは何?」
「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれました。発表します。薫子ちゃんへの罰ゲームはこれよ!!」
 まりやは段ボールの中から何かを取りだした。
「なるほど。いいかも知れない」
「まりやさんにしては、いい考えですね」
「やはり、皆さんといると、退屈しませんわ」
「どうやら全会一致の様ね」
 こうして薫子への罰ゲームは決定した。

 

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