「こんなところで立ち話もなんですから、皆さんお上がりになってください」
  沈黙を破った勇者は楓だった。
「そうだね。奏ちゃんたちには、先に部屋に案内しておきたいから私についてきてね」
「はい!」
  薫子が威勢の良い返事を返し、奏・ケイリがお姉さま方に軽く会釈をしてから、三人は瑞穂に従い部屋に向かった。
「薫子ちゃん、少し緊張してる?」
  廊下を歩きながら、瑞穂が言葉数が普段よりも少ない薫子を心配して尋ねた。
「ええ。やはり、わが校でもずば抜けて知名度の高いお姉さま方を前にするとさすがのあたしでも緊張しますね」
  そう言う薫子に奏がすかさずつっこむ。
「そうですか。薫子ちゃん、普段はあんなにもお姉さま方と楽しげに話していますのに」
  慌てて薫子が答えを返す。
「それは、いつも話すのが瑞穂さんたちだから……」
「今日もそうだけど……」
  明らかに今の薫子の様子はおかしい。瑞穂も一抹不安を覚え、薫子に尋ねた。
「薫子ちゃん、困ったことがあったらすぐに私に言ってね。私にできることならなんでもするわ」
  瑞穂は優しい声で薫子に語りかける。しかし、薫子は小さく頷いただけで、いつもの快活な姿はそこにはなかった。
 そんな薫子を見て、奏が口を開いた。
「瑞穂お姉さま、今日は薫子ちゃんと同じ部屋で寝てもいいですか?」
「ちょっ、お姉さま!」
  唐突な奏の提案に、薫子は驚きの声をあげた。
「そうね。奏ちゃんは薫子ちゃんの姉な訳だし、今の薫子ちゃんの様子を見たらそのほうがよさそうね」
「ちょっと、瑞穂さんまで!」
  混乱する薫子をよそに二人で話は進められていく。
「ではお姉さま、今晩は薫子ちゃんと一緒に寝ます」
「わかったわ。じゃあ二人の荷物は奏ちゃんの部屋に運びましょうか」
「はいなのですよ」
 とんとん拍子に決まる二人の計画に薫子が口を挟む。
「待ってください。あたしは何も言ってな……」
  薫子は言葉を最後まで言おうとしたが、奏が悲しそうな顔をしたことで言葉が詰まってしまった。
「薫子ちゃん、私のことが嫌いなのですか」
  エルダーの発言は時として生徒会長をも上回る強制力を持つ。
「分かりました。お姉さまと一緒に寝ます」
  姉には弱い薫子であった。
「薫子達を見ていると退屈しないな」
 後ろからついてきていたケイリがぼそっと呟いていた。

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