恥ずかしそうに下を向いて、手を前で組んでいる女の子が二人いる。いや、正確には女の子が一人と男の子が一人が、小さなステージの上に立っていた。
「薫子。あんたやるわね」
「やっぱり私がずっと思っているように、薫子ちゃんにはこういう服が似合うのですよ」
「薫子さん、可愛いですわ。後でぎゅっとさせてくださいね」
一人は、長い黒い髪が清楚で美しく、端正の取れた顔立ちをしている。長身の割にスレンダーな体つきの彼女は、白いタートルニットの上からパープル・グレー・ホワイトのチェックのジャンパースカートを着ている。顔を真っ赤に染めて、小さな声でブツブツと文句を言っている彼女の仕草も相まって、一層可愛らしく見える。彼女の名前は、七々原薫子。聖應女学院高等部二年生で、『騎士の君』の二つ名を持つ。普段は横柄でがさつな彼女だが、今日はお淑やかで弱々しい、可憐な少女に見えた。
「こっちは………。さすがとしか言いようがないわね」
「お姉さま。それは反則なのですよ」
「瑞穂さんもぎゅっとしていいでしょうか」
もう一人は、同じく美しい長髪と男性とはまるで思えない美顔の持ち主である。プロポーションも本物の女性に匹敵する、いや、上回るほどに美人である。そんな彼女、いや彼は、白とピンクのレースフリルと胸下のリボンがアクセントになって非常に可愛らしいワンピースを着ていた。彼の名前は、鏑木瑞穂。元聖應女学院第72代エルダー・シスターにして、現在は翔陽大学二年生。恥じらいながら、少し頬をふくらまして怒っている彼は、いかにも愛らしいお嬢様といった様子だ。
「まりやお姉さま、このぐらいで勘弁してください」
「まりや、もういいでしょ」
二人とも真っ赤な顔で、必死にまりやを説得する。
「そうね。失神してるのも約一名いることだし、次で最後にしましょう」
そう言うと、まりやはダンボールからどこかで見たことがある白いエプロンと深緑のメイド服を取り出した。
「これを着て、二人とも楓さんと夕食を作ってきて。あたしらは、ダンボールとか片づけてテーブルをセットしとくから」
まりやの言葉に二人とも呆気にとられたが、すぐに正気を取り戻し素早くメイド服を受け取った。
「これで薫子へのお仕置きはおしまいね。さてと、貴子起きなさい。貴子!!」
「…ん………んん……」
「気づいた?」
「……えっ……まりや…さん?」
「貴子、どの辺まで覚えてる?よっと、ほら掴まって」
「ええ、ありがとうございます。そう言えば、瑞穂さんは?」
貴子はそう言うと、辺りを見回し、瑞穂と目が合った。
「きゅ〜〜〜〜〜〜〜〜……………」
貴子は気絶した。
「………あちゃ〜。貴子と瑞穂ちゃんの目を合わすべきじゃなかった。ほら、瑞穂ちゃん早く着替えて。また、貴子が気絶するわよ」
「えっ?……ああ、うん。分かった」
まりやは貴子の介抱をし、瑞穂と薫子は着替えるために別々の部屋に向かっていった。他の連中も各自、散らばっていく。
「貴子、あんたさ、瑞穂ちゃんと出会って本当によかったね」
皆が立ち去った後、気絶している貴子に向かってまりやはそう呟いた。
一方、瑞穂はというと……………
「ところで、なんで僕までメイド服を着なきゃならないの?!」
まんまとまりやの術中に嵌っていることを、今更ながらに気づくのであった。