俺は今、地球を見下ろしている状態で、船内からは地球より月のほうが大きく見えている。
「しかしあの合格からはや二年ですか」
  目の前の座席で優雅にお茶をたのしんでいるのはカレンさんだ。
「ええ、そうですね。いきなりでびっくりしましたよ。いきなりですよ、ホントに・・・。学長室に行ったら『君には三ヶ月の月留学の代表として行ってもらうから』って、いきなり言うだけ行って退席しろですからね」
「ふふ、確かにそうですね。この話もいきなりでしたからね」
 

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三か月前の月王宮での出来事である。
 

「しかしフィーナ様も無茶をしましたね」
 カレンはわざとらしくため息をついた。
「あら、なんのことかしら」
 無邪気な笑顔で答えるフィーナ。
「留学の話ですよ。まったく」
「あら〜、結局頷いたのはカレンもでしょ」
「?っ」
「私はいいと思うのだけどね。彼なら未だに偏見でしかとらえていない人もどうにかなりそうだと思うけど。それに彼以外適任はいないと思うわ」
 フィーナは、僅かに上目づかいでカレンを見ている。
「ええ、確かに達哉くんなら適任だと思いますが・・・」
 カレンはこの時に確信した、“きっとなにをいっても無駄なのだろう。ホントあの人に似られましたね、フィーナ様”と・・・
 

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さらに数時間前、とある孤児院の個室にて、二人の大人が小さなランプの明かりを頼りに密談をしていた。


「この件に関してはモーリッツ様が一枚かんでいると思いまして来たのですが……」
 カレンは、眼前の古き良き父親のような人物と話をしていた。その人物は一見なんの変哲もない初老の男性に見えるが、月下の光のような服を着ているせいか、それとも長年の功のせいか、彼は計りきれない空気を纏っていた。
「なぜ、そう思うのかね、カレン」
「彼の留学先がココだからです」
 迷いのないモーリッツの言葉に、カレンは呆れて苦笑している。
「なに、私が地球にいた時、フィーナ様に良き人は誰だと聞かれて答えたまでだよ」
「そうですか」
 カレンは完全にあきらめたようすだ。
「しかしよろしいのですか。まだ、地球と月の関係は良好とはとてもいえません。そんな中で達哉君を呼んで……」
「だからこそ、彼のような人が必要なのですよカレン。彼ならいや彼こそがこれを打開してくれると私は思っています」
「しかし、もしですが彼をよく思わない人がいたら………」
 私は脳裏に不安が走る。しかし、モーリッツ様は笑い出して……
「ハハハ、忘れていますよカレン。彼の執念の強さを………」
 と、力強く言い放った。

……………………………… 

 

「カレンさん。起きてください……カレンさん!」
「は、はい」
「もうすぐみたいですね」
 完全に緊張している俺……
「そ、そうですね。そろそろ外が見れなくなりますね」
 一方のカレンさんは完全に落ち着いている。少し疲れているようだが……。

 さて、月はどんなところなんだろう。地球でいつも見上げていた月。いつか行きたいと思った月。夢の月。そしてエステルの育ったところ。

 

  

そして今、かつて少年が夢みた光景は、少年が青年となって現実となるのである。

 

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